取引効用理論
結局着ない服なのに、「70%オフでお得に買えた!」という高揚感だけで買ってしまう心の計算メカニズムです。
定義 取引効用理論とは、人が買い物をする際、商品そのものから得られる満足感だけでなく、「定価よりどれだけ安く買えたか」という心理的な快感(お得感)によって財布を開いてしまうと説明する行動経済学の理論です。商品の本来の使い道とは関係なく、「掘り出し物を手に入れた」という取引自体の喜びが購入の決め手になることを示しています。
必要のない服を「セールだから」という理由だけで買う心理
デパートのセールコーナーで、もともと2万円のコートが7,000円で売られているのを見ると、思わず心が躍ります。今すぐコートが必要でなくても、「なんと1万3,000円も得をした!」と感じて、ついカードを切ってしまうことがありますよね。
行動経済学者のリチャード・セイラーは、人が買い物をするときに2種類の異なる満足感を感じていると考えました。1つ目は、商品を手に入れて使うことで得られる本来の価値である獲得効用です。服を着て暖かさを感じたり、似合っておしゃれに見えたりする実質的なメリットのことです。
2つ目は、基準となる価格よりもどれだけ有利に買えたかによって生まれるワクワク感、すなわち取引効用です。わかりやすく言えば、「定価より安く買えた!」という勝利感やお得感の喜びです。私たちはしばしば、商品の本来の使い道よりも、この取引効用に惹かれて購入ボタンを押してしまうのです。
ホテルのビールと町の売店のビール、価格の秘密
猛暑の砂浜で、友達が冷たいビールを買ってきてくれると提案したとします。近くの高級ホテルのバーで売っているビールなら、1本1,000円と言われても喜んで頼むでしょう。ところが、年季の入った町の売店でまったく同じ缶ビールが1,000円で売られていたら、誰もが「ぼったくりだ!」と怒るはずです。
喉を潤してくれるビールの味や中身は完全に同じなのに、なぜ支払ってもいいと思える金額がこれほど違うのでしょうか?それは、私たちの頭の中にある心の基準価格(参照価格)が場所によって異なるからです。
ホテルのバーなら「高くて当たり前」という基準があるため1,000円でも納得できますが、町の売店なら「250円くらい」という基準があるため、1,000円を払うと強いマイナスの取引効用(不快感)を覚えます。取引効用は、実際に支払った金額と基準価格の差から生まれるのです。
もう少し詳しく:マーケターが値札に赤線を引く理由
従来の経済学では、消費者は商品の実質的な価値(獲得効用)と価格を冷静に見比べて、合理的に買い物をすると教えられてきました。しかし実際のショッピングモールやスーパーでは、消費者の心理を突くために取引効用が巧みに活用されています。
定価1万円に赤線を引いて「70%OFF!特別価格3,000円」と書かれていると、消費者の頭の中の基準価格は一瞬で1万円に固定されます。すると消費者は3,000円の商品を買っているのではなく、7,000円分の心理的利益を得ていると錯覚してしまうのです。
賢い消費者になるためには、セールの札を前にして一呼吸置き、自分に問いかけてみる必要があります。「もしこの服が最初から定価3,000円の商品だったとしても、自分は買っていたかな?」と。もし答えが「いいえ」なら、私たちは商品ではなく「割引というお得な気分」を買っただけに過ぎないのです。
🤔 よくある誤解
取引効用が高いということは、商品の品質が良く使い道が多いことを意味する。
取引効用は商品の実質的な価値とは関係なく、「定価に対してどれだけ安く買えたか」という心理的な気分に過ぎません。いくら大幅な割引で買っても、使わずに放置してしまえば単なる浪費です。
🧺 日常で出会う場面
私たちは商品の実質的な使い道だけでなく、「安くお得に買えた」という心理的な快感に引き寄せられてお金を使っています。