油火災の窒息消火
燃え上がるフライパンにフタをして、火の「呼吸」を遮断する消火法です。
定義 油から出た火に酸素が入らないよう、フタや濡れタオルなどで空気の通り道をぴったり塞いで火を消す方法です。水をかけると大爆発を引き起こす油火災において、火の「呼吸」を止めて安全かつ迅速に消火するための基本原理です。
なぜ油の火に水をかけると巨大な火柱が上がるのか?
揚げ物や炒め物をしていてフライパンから火が上がると、慌ててシンクの水をかけたくなってしまうかもしれません。しかし、油火災に水をかける行為は、火に油を注ぐどころか「油爆弾」を爆発させるような極めて危険な行動です。水は油よりも重いため、注いだ瞬間に高温に熱せられた油の底へと一気に沈み込んでしまいます。
底に沈んだ水は、数百度の油の強烈な熱によって1秒にも満たない瞬間に水蒸気へと変化します。このとき、水から気体へと状態変化する過程で、体積がおよそ1,700倍へと爆発的に膨張します。このすさまじい水蒸気圧が、上にあった燃える油を一気に周囲へ押し上げ、巨大な火柱と火炎の嵐を瞬時に巻き起こすのです。
つまり、火を消そうとしてかけた水が、燃え盛る微小な油の粒を空気中へ勢いよく撒き散らし、酸素と急激に結びつける起爆剤になってしまいます。キッチン全体を焼き尽くす大惨事を防ぐためにも、「油火災に水は一滴も厳禁」ということを絶対に覚えておきましょう。
火の息の根を止める「窒息消火」の原理
キャンドルの火の上に透明なグラスを被せると、少しして火がスッと消えるのを見たことがあるかもしれません。物が燃え続けるためには、可燃物と高い熱のほかに、空気中の酸素が絶え間なく供給される必要があります。空気中の酸素濃度は通常約21%ですが、これを15%以下まで下げると、火は燃え続ける力を失って自然に消えてしまいます。
窒息消火とは、文字通り火が呼吸するための酸素を遮断して消火する方法です。油火災が起きた際、最も素早く確実なのは、フライパンにぴったり合う金属製のフタを横から滑らせるようにそっと被せることです。空気が入らないよう隙間なく覆うだけで、内部の酸素が一気に尽きて火が消えます。
ここで絶対に注意すべきなのは、「火が見えなくなったから」といってすぐにフタを開けてはいけない点です。油の温度が自ら発火する「発火点」以上にとどまっている場合、フタを開けた瞬間に新鮮な酸素が入り込んで火が再燃してしまいます。フライパンが十分に冷めるまで、フタをしたまま静かに待ちましょう。
キッチンですぐ実践できる対処法とK級消火器
すぐにフライパンに合うフタが見つからない場合でも、キッチンにある身近なもので酸素を遮断できます。大きめのタオルやふきんを水で十分に濡らし、水滴が垂れない程度に固く絞ってからフライパン全体をふわりと覆う方法が非常に効果的です。しっとり湿った厚手の布が酸素を遮断するバリアとなり、炎を一気に鎮めてくれます。
また、キャベツや白菜などの水分の多い葉物野菜をフライパンに一度にたっぷり投入する方法も有効です。冷たい野菜が油の熱を奪って温度を下げると同時に、油の表面を覆って酸素を遮断するという2つの役割を果たします。もちろん、真っ先にコンロやIHの電源を切ることも絶対に忘れてはなりません。
なお、家庭や厨房の油火災にはK級消火器(厨房用消火器)を使用することが最も確実です。薬剤が油の表面に触れると石鹸状の濃密な泡の膜を作り出して酸素を遮断し、同時に油の温度を急速に下げて再発火を根本から防いでくれます。
🤔 よくある誤解
油に火がついたとき、少量の水ならサッとかければ消せる。
水は油の底に沈んですぐに気化し、体積が1,700倍に膨張します。燃えている油を周囲に飛散させ、巨大な火炎爆発を引き起こします。
炎が見えなくなったら、すぐにフタを開けて換気すべきだ。
油の温度が発火点以上のままだと、フタを開けた瞬間に酸素が供給されて再発火します。フライパンが完全に冷めるまでフタを被せたままにしておく必要があります。
🧺 日常で出会う場面
油火災に水をかけると爆発するため、フタや濡れタオルで空気を遮断して酸素を奪う「窒息消火」で消す必要があります。