静電誘導

人気アイドルが教室のドアの前に現れたとき、ファンは前へ駆け寄り、恥ずかしがり屋な生徒は後ろへ下がる教室の光景に似ています。

定義 静電誘導とは、電気を帯びた物体(帯電体)を別の物体に近づけたとき、物体の中の電子が力を受けて移動し、物体の両端がそれぞれ異なる電気を帯びる現象のことです。

触れてもいないのに動く魔法

髪の毛でゴシゴシこすった風船を、空き缶にそっと近づけると不思議なことが起こります。風船と缶が直接触れてもいないのに、缶がスルスルと風船に向かって転がり始めるのです。

これは手品ではなく、物質の中に潜むごく小さな粒である「電子」の大移動によるものです。普段、アルミ缶の中にはプラス(+)の電気とマイナス(-)の電気が同じ数だけおとなしく混ざり合っているため、全体としては電気を帯びていません。

ところが、摩擦によってマイナスの電気をたっぷり帯びた風船が近づくと、状況は一変します。同じマイナスの電気同士は強く反発し合うため、缶の中で自由に動き回れる電子たちが、風船を怖がって反対側の奥へと一斉に逃げ出すのです。

その結果、風船に近い側は電子が減ってプラス(+)の電気を帯びるようになります。異なる電気同士は引き合うため、缶が風船に引き寄せられてコロコロと転がってくるわけです。

静電誘導:負電荷風船によりアルミ缶の電子が反発し引力が働く原理 負電荷(-)風船 アルミ缶 引き合う(引力) +電荷の誘導 −電子の反発

金属と紙では何が違うのでしょうか?

では、金属ではなく紙やプラスチックのような物体ではどうでしょうか? 電気をよく通す「導体(金属)」には、自由に動き回れる「自由電子」がたっぷりあるため、静電誘導がとてもはっきりと起こります。

一方、紙のように電気を通さない「不導体(絶縁体)」の中の電子は、原子にしっかりと束縛されているため遠くへ逃げることができません。しかし、電子たちは諦めずにその場で少し姿勢を変え、風船の反対側へとわずかに偏ります。

原子ひとつひとつの形が少し歪み、片側がプラス、反対側がマイナスと整列するのです。このように不導体で起こるわずかな電荷の偏りを誘電分極と呼びます。下敷きをこすって頭の上に掲げると髪の毛が逆立ったり、プラスチックのクシに細かくちぎった紙がピタッと吸い付いたりするのも、すべてこの現象のおかげです。

もう少し正確に言うと

もう少し正確に言うと、静電誘導が起きたからといって、物体に新しい電気が生まれたわけではありません。外から電子が入ってきたり出て行ったりしたわけではないので、物体全体のトータルの電気量はいつでも変わらずゼロ(中性)のままです。

単に内部にあった電子の位置が一時的に片側へ偏っただけなので、近づけていた帯電体を遠ざけると、電子たちはすぐに元の配置へと散らばります。物体は何事もなかったかのように元の状態へ戻るのです。

もしこの電気を物体にずっと残したいなら、指をそっと触れる「アース(接地)」という方法を使います。逃げた電子を指伝いに外へ逃がしてから指を離せば、物体はめでたくプラスの電気を帯びた状態のまま残ることになります。

静電誘導と接地による物体の帯電3段階 1. 電荷誘導 電荷分離 2. 指で接地 電子(-)放出 3. 帯電完了 (+)電荷残留

🤔 よくある誤解

✕ 誤解

静電誘導が起こると、物体そのものが完全に電気を帯びた帯電体に変わってしまう。

✓ 事実

接触させずに近づけただけの状態では、内部の電子が片側に偏っただけにすぎません。物体全体を合わせた電気量はゼロ(中性)のままであり、帯電体を遠ざければ元に戻ります。

🧺 日常で出会う場面

1 髪をとかしたクシを細く流れる水道水に近づけると、水流がクシの方へ曲がります。
2 静電気を帯びた風船を壁に近づけると、手を離しても壁にピタッとくっつきます。
3 実験室で金属箔が開く「はく検電器」を使って、電気がたまっているかを調べるときに使われます。
💡 つまり ひとことで

電気を帯びた物体が近づいたとき、物体の中の電子が引き合ったり反発したりして、両端がそれぞれ異なる電気を帯びる現象です。