ドップラー効果
近づく救急車のサイレンは甲高く、遠ざかるときは低く聞こえる、波の「縮み」と「伸び」の現象です。
定義 道を歩いているとき、近づいてくる救急車のサイレンが「ピーポー」と高く聞こえ、目の前を通り過ぎた瞬間に「ボーポー」と急に低く変化した経験はありませんか? このように、音や光といった「波」を出す物体が動いているとき、観察者が感じる振動数(1秒間に波が届く回数)が本来のものから変化して感じられる現象を「ドップラー効果」と呼びます。
なぜ近づくときは音が高くなるの?
池の上に静かに浮かぶアヒルが足をパタパタさせると、綺麗な同心円を描く波紋が四方八方に均等に広がっていきます。波と波の間隔も、前後左右すべて同じです。しかし、アヒルが前へ泳ぎながら足を動かし続けると、波紋の形は大きく変わります。
アヒルが前進しながら波を出すため、アヒルの前方にある波同士はギュッと詰まって間隔が狭く圧縮されます。反対に、通り過ぎた後ろ側の波は間隔がぐっと広がってまばらになります。
音もまた、空気を伝わって広がる一種の波(空気の振動)です。救急車がサイレンを鳴らしながら自分に向かって走ってくると、音の波が前方にギュッと凝縮され、耳へと次々に押し寄せてきます。1秒間に鼓膜を叩く波の回数が多くなるほど、脳はそれを「より高い音」として認識するのです。
もし救急車が止まったままサイレンを鳴らしていれば、このような音の変化は起きません。救急車自身が前へ進みながら、自ら放った音の波を後ろから追いかけるように押し込むため、前方の波が圧縮されるのです。
遠ざかるときに音が低くなる理由と、光の変化
救急車が目の前を通り過ぎて遠ざかり始めると、今度はまったく逆のことが起こります。救急車は音を出しながら同時に遠くへ逃げていくため、耳に届く音の波の間隔がゴムのように長く引き伸ばされます。
波の間隔が広がると、1秒間に耳へ届く波の数(振動数)が減ってしまいます。耳は1秒間に届く波が少ないほど「低い音」として聞き取るため、通り過ぎた瞬間にサイレンの音がストンと低く落ちたように感じるのです。
驚くべきことに、このドップラー効果は音だけでなく目に見える「光」でも全く同じように起こります。光も波の性質を持っているため、ものすごいスピードで地球に近づいてくる星の光は波長が縮んで青っぽく見え(青方偏移)、遠ざかる星の光は波長が伸びて赤っぽく見えます(赤方偏移)。
警察がスピード違反の車を取り締まる際に使うスピード測定器もこの原理を利用しています。車に向けて発射した電波が跳ね返ってくるときに、波の間隔がどれだけ詰まったかを測定することで、車の瞬間速度を割り出しているのです。
もう少し正確に言うと:宇宙膨張の秘密
もう少し正確に言うと、救急車が鳴らしている実際のサイレンの高さや、星が放っている本来の光の色そのものが変わっているわけではありません。
サイレンを鳴らして走る救急車の中にいる運転手さんには、音の高さの変化はまったく感じられません。最初から最後までずっと同じ音程に聞こえています。ドップラー効果は、音を出す物体とそれを聞く人との「相対的な動き」によって、観測者の立場からだけ生じる現象なのです。
天文学者のエドウィン・ハッブルは、この光のドップラー効果を利用して夜空のはるか彼方にある銀河を観測しました。すると驚いたことに、ほぼすべての銀河から届く光が赤色側に伸びる「赤方偏移」を示していたのです。
これは、地球の周りにあるほぼすべての銀河が、凄まじいスピードで私たちから遠ざかっていることを意味していました。つまり、私たちが暮らす宇宙空間そのものが風船のように今この瞬間も膨張し続けているという事実を、ドップラー効果が見事に証明したのです。
🤔 よくある誤解
近づいてくる救急車のサイレンの音がだんだん大きくなること自体がドップラー効果である。
音が大きく聞こえるのは距離が近づいたことによる音量(ボリューム)の変化です。ドップラー効果は音の大きさではなく、「音の高さ(周波数)」が甲高く上がったり低くなったりする現象を指します。
🧺 日常で出会う場面
波を放つ物体が近づくと波が圧縮されて高く(または青く)なり、遠ざかると波が引き伸ばされて低く(または赤く)なる現象です。